1-2、光の速さは変えられない!?
1905年に発表されたアインシュタインの特殊相対性理論は、力学(物体の動いたり壊れたりする様子などをまとめた知識)と、電磁気学(磁石の力や静電気の力の、動きも含めた絡み合いをまとめた知識)との間にあった不具合を解決したものです。だから特殊相対性理論をきちんと理解しようと思ったら、力学と電磁気学を勉強しなければならないのですが、考え方に近道があります。電磁気学を簡潔にまとめた方程式から、真空中の光の速さが定数(条件によらずに常に一定の値)であるものとして導かれますが、この、光の速さが定数であるということを認めさえすれば、時間や空間の考え方の修正という、多くの人が最も興味を持っているトピックスへと進むことができるようになります。
しかしながら、何かの速さが定数であるということは、あまりにも奇妙であり、日常の常識や経験からはとてもたやすく認められるものではありません。いったいどういうことなのか、順を追ってみていきましょう。
1-2-1、光の正体は?
光の速さについて考える前に、光にまつわる奇妙な性質を見てみましょう。そもそも光は粒子なのか波なのか大昔から議論の的となっておりました。この問題の答えは20世紀に入ってから、昔の偉人たちが予想もできなかった思わぬ形で決着を見ます。
1-2-1-1、来た!
「何かがやって来た」。といったときに、何がくるでしょう? 手紙が来た。ボールが来た。借金取りが来た。 津波が来た。電話が来た。合図が来た。 幽霊が来た。ゴシップが来た。・・・・。 これらは大きく3種類に分類されます。
- 第一に、手紙、ボール、借金取り等は、物体がやってきます。いわゆる「モノ」が移動してきます。
- 第二に、津波、電話、合図等は、波動です。モノは来ませんが、 振動などの「状態」が徐々に隣りへ隣へと影響を与えて最後に受け手の所まで届きます。 「ヒモを引っ張って合図する」等といった場合、「ヒモがぴんと張られた状態」が、送り手から受け手へとヒモの中を伝わって行くわけです。声で話をするのも、空気の振動(=音波)が伝わってくるから出来るのです。 いわゆる「波」です。
- 第三に、幽霊、ゴシップなど。これらは科学の対象になりませんので除外されます。 幽霊は、確実に再現できる可能性がありません。 確実に再現できるか、誰もが同じ現象を確実に観測できるかでなければ、物理では信用されません。 ゴシップは、多くの場合は、人をおとしいれるための作り話であることが多く、 事実を反映した正しい情報ではありません。 ですから「情報が伝わってきた」とはいえません。 何かが来たというのは、 移動を意味しますので、来たという「結果」に対して、 行くという「原因」が要求されます。 この、原因と結果の間に確かな関連が認められない場合には、 もはや自然科学の対象としては扱われないでしょう。これは暗黙の原理です。
以上より、何かが来たといった場合にその形態は、おおかた「モノ」と「波」に分類されます。 それでは「光が来た」場合についてはどうでしょうか?
1-2-1-2、光は波
夜、遠くの車の明かりを、薄い布で出来たノボリ越しに透かして見ます(ノボリからも十分離れます)。すると車の明かりが、とびとびのマダラ模様になって見えます。・・・なぜでしょう?
これは薄い布を通った光が広がるときに、光が強まる方向と弱まる方向があるからです。光が強まる角度でやってきた光だけが見えるのでまだら模様になって見えます。
この現象は、もし光が(古典的)弾丸のような粒子だとすると説明がつきません。波であるとすると、「波の干渉」という現象としてとらえることができます。
薄い布にはたくさんの小さな穴があいていますが、 光が波だとすると、それぞれの穴を通った光が再び出会うときに、角度に依って様々なずれができていて、 そのずれ具合が、強め合うずれであったり、弱め合うずれであったりするために、 角度により、光が明るく届く方向と、光が届かない方向とができるのでした。 この強め合ったり弱め合ったりする性質は光が弾丸のような(古典的)粒子だとすると、説明がつかない現象です。
- 波の重ね合わせ:
- 複数の波が合わさったときに、波の中央から振れる値(変位)が単純にそれぞれの波の値の足し算で表されるとき、これを「波の重ね合わせ」と云います。
- 「重ね合わせ」される波の例↓。ぶつかってもそれぞれの波の形は崩れません。(動画)
- 注意:波だから重ね合わせができるというのではなく、重ね合わせのできるような波をこれから考えようという話しです。弱い波ではたいてい重ね合わせが成り立ちます。水の波でも極端に波頭がとがっていたり、複雑に渦を巻いていたりすると重ね合わせが成り立たなくなることがあります。
- 典型的な波形:
- 正弦波(せいげんは)
高校の教科書に波として紹介される波形。こんなきれいな波が実際に自然界に存在するには特別な条件が必要(⇒共鳴)。しかし、どんな波でもいろんな正弦波を重ね合わせることで作り出すことができる(後述)ので、最も基本的な波形と考えられる。本稿でも主にこの波形の波をあつかうことにする。
関連するさんすう:フーリエ級数、フーリエ展開- 矩形波(くけいは)
電気回路などで理想的なデジタル信号などとしてよく使われる。
関連するさんすう:ラプラス変換- 衝撃波(しょうげきは)
単発ではショックを表すような波だけれども、どんな波の形も細かく縦割りにして並べてみると、限りなく幅の小さな衝撃波を無数に重ね合わせて作り出せることがわかる。
関連するさんすう:デルタ関数、グリーン関数
- 正弦波を重ね合わせてどんな形も作れるよ(フーリエ級数):
例えばこんな波の形を
作りたいとする: 正弦波を重ね合わせて ⇒ かなり近い形に
することができる⇒ ⇒ ↓ もっと細かい正弦波も加えることで、
いくらでも目的の形に近づくことができる- 逆に、どんな波の形も、正弦波の組み合わせに分解することができる!
- だから、とりあえず、波は正弦波で考えておいて、後で重ね合わせればヨロシ。
- 波の干渉を確かめる実験の例:
- 光の通り道に穴の開いた障壁(スリット)を置くと、それぞれの穴を通った光が再び出あうときに、強めあったり弱めあったりする結果、光が強くなったり弱くなったりする向きがある様子が観察できます。
- ✿二重スリットの実験
- ✿回折格子の実験
1-2-1-3、光は粒
とても弱すぎて、あるのかないのかわからないような、 かすかな波が来たことを検知するにはどうすれば良いかと申しますと、 共振だとか共鳴だとか呼ばれている現象を利用します。 これはたとえば、ぶらんこに乗った子供を後ろから押してあげるとき、 ちょうどぶらんこの振れのタイミングに合わせて押してあげると、 1回あたりに押す力が小さくても、何回か押しているうちに、だんだん振れが大きくなっていく現象です。 とても小さな振動を時間をかけて溜め込んで大きな振動に育て上げるわけです。
もし光が波だとすると、とても弱い光が私たちの目に届いたとき、 私たちの目の中の神経を刺激できるようになるまでには、しばらく振動を溜め込まなければならず、時間がかかります。 ある計算によると、その時間は100年ぐらい必要だともいわれています。 しかしながら、私たちは、目に入ってきた弱い光を瞬時に見ることができます。 光を波だとする考え方は、この点では、破綻します。
人の目の構造は複雑なので、もっと単純な例を取り上げてみましょう。 表面をきれいに磨いた亜鉛の板に、殺菌用の紫外線ランプを近づけると、中から電子が飛び出してきます。 電子は金属の中で電気を運ぶ役目を担っている、とても軽い素粒子です。 紫外線は目には見えない光で、虹の七色の、青⇒紫⇒...の外側に位置しております。 目には見えなくても、紫外線はデジタルカメラの映像としてはとらえることができる場合があります。 電気を運ぶ電子が飛び出してくるということは、光を当てることで電気が流れるわけで、 この現象は「光電効果」と呼ばれています。
紫外線ランプに覆いをかぶせて、光を弱くしてみるとどうなるでしょうか。 かなり弱くしても電子は飛び出してきます。 これは、紫外線(光)が波だとすると説明のつかない現象です。 さらに弱くすると、電子がポツリポツリと飛び出してくるようになります。 じつは、光の強さは飛び出してくる電子の個数に比例しており、 飛び出してくる電子の勢いとは関係がないことがわかっています。 これは光が電子をはじき飛ばすときの強さ(エネルギー)が必ず一定の量に決まっているということを意味します。 まるで玉が玉をはじくようなイメージがぴったりくるので、光は粒であると考えられます。
一つ注意しておかなければならないのですが、光が粒であるといっても、形はわかりません。 丸いのかデコボコしているのかはわからないのです。大きさも不明です。 ボールのようなまとまった形をイメージするとあまりうまくないかもしれません。 それどころか、電子をはじき飛ばすまでの間は、「どこにあるのか」すらもわからないのです。 はじき飛ばされた電子の運動を調べることで初めて、どのあたりでぶつかったのかわかるのでした。
光電効果を工業的に利用した例としては太陽電池が挙げられます。 光を当てると電子が飛び出すという現象をそのまま発電に利用しています。 この太陽電池は、紫外線ではない目に見える光でも電子が飛び出してくるように工夫されています。 光電効果を利用した自然現象としては、私たちの目が挙げられます。 この仕組みのおかげで、私たちは暗いところでも物を見ることができます。 また、草木の葉が光合成で二酸化炭素から栄養分を作り出してさらには酸素を吐き出すのも、 この光が電子をはじき飛ばすという現象を利用しています。
⇒関連項目:光電効果
光が粒として振る舞うという性質は、実は光電効果が発見される以前から理論的に予想されていました。 それは「光の温度」についてきちんと説明するためにどうしても必要な考え方だったのです。 暖かいものと冷たいものをくっつけてしばらく置いておくと、暖かいものは冷めて、冷たいものは暖まり、 やがて同じ温度になります。この考え方を光にも広げると、光の温度を考えることができるようになります。 太陽の光を浴びると暖かくなるように、物体に光を当てて暖めることができます。 逆に、物体はいつも光を放出して冷めていきます。目には見えなくても、赤外線と呼ばれる光を放出しています。 虹の七色で、橙⇒赤⇒小豆色... の外側にある見えない光なので、「赤外線」です。 手のひらを手の甲に近づけると、触れてもいないのに暖かさを感じます。 (冷え性の人は手の温かい人にやってもらってね。) これは手のひらから赤外線が出ている証拠です。 温度をとても高くすると、炎のように目に見える光を出すようになります。 暖かい物体が触ってもいないのに冷めていくのは、光を放出しているからで、この現象は、熱の放射と呼ばれています。 この「光の温度」を理論的にきちんと説明するためには、 光が粒の集まりになっていると仮定する必要があることがわかっていたのでした。
熱や温度を理論的に考えるときに「エネルギー等配分則」という考え方がありまして、 どこかに周りよりエネルギーを多く持った部分があれば、その部分のエネルギーは周りに広がっていってしまい、 しばらくすれば最後には、どこも同じようなエネルギーの値に落ち着くという考え方です。 この、エネルギー等配分則を光に適用しようとするとき、 いろいろな色の光にエネルギーを割り振る方法がなかなかうまく見つからなかったのでした。 そして結局、光は、それぞれの色ごとに、定まった大きさのエネルギーの塊の集まりになっていると仮定すると、 光の温度について実験結果とぴったり合う計算結果が得られるようになったのでした。 そういう意味で、光が粒であることが予想されていたのです。
⇒関連項目:熱輻射、プランク(Max Planck)
1-2-1-4、どっちですか?
粒であることを確かめる実験をすれば、粒であるという答えが返ってきて、 波であることを確かめる実験をすれば、波であるという答えが返ってきます。 光とは、とても優柔不断なやつのように見えますが、結局どちらなのでしょうか?
結論から申しますと、両方の性質を兼ね備えていると云えます。 これは実験で直接に確かめることが出来ます。
粒のようで粒とよべず、波のようで波とよべない。 よびかたに困る場合は、新しく名前を付けてしまいます。 一定の量ごとに区切られているという気持ちでこれを「量子」と呼びます。 「りょうし」と読みます。英語ではQuantum(かんたむ)。
では、光の速さについて、モノと波と光でその性質を比べてみましょう。
1-2-2、光の速さの不思議
「光の速さは定数だよ。変だよねえ。」と持ちかけると、「え゛?…それのどこが変なの?」という返事を耳にすることがあります。何がどう変なのか、その証拠の例とともに見ていくことにしましょう。
1-2-2-1、モノと波と光の速さ
鉄砲から発射される弾丸と、スピーカから出る音波と、ストロボから出る光とのそれぞれ速さを比べてみます。はじめ、鉄砲、スピーカー、ストロボと、それを見ている観測者はそれぞれあなたに対して静止しているものとします。このとき、弾丸、音波、光の速さをそれぞれ a、b、c とします。観測者は速度に関して当然同じ答え:a、b、c を出すでしょう。
1-2-2-2、走るソース
物体や波動が飛び出してくる「源」をソース(source)といいますが、これらが移動している場合に、飛び出してきたものの速度はどうなるでしょうか。
鉄砲から弾丸が飛び出してくる場合には、鉄砲の速度が弾丸の速度に足されます。
見てみよう:走りながら投げるボールの速さと、止まったまま投げるボールとでは、 地面に対して止まっている人から見て、どちらが速いでしょうか? ボールを投げるときの力の入れ様はどちらも同じぐらいにします。
一方、スピーカーから音波が飛び出してくる場合はどうでしょうか?スピーカーの速さは音波の速さに足されません。
水の波でも同様です。クジラが立てる波の速さについて考えてみましょう。 クジラが観測者に向かってきても、クジラの速さはクジラが立てる波の速さに足されません。
見てみよう:公園の池に浮かぶボートが作る波の様子を観察してみてください。 波の広がる速さは、ボートの進む速さと関係ありません。
さて、ストロボから飛び出す光につきましては、ストロボの速度が足されません。
この点では音波や水の波と似ています。
証拠:動く星から出る光の速さ
光の速さが光源の速さによらないことにつきましては非常に高い精度の実験で確かめられています。 もしも、2種類の速さの光を同じ場所から同時に出したとすると、この速さの違いは、はなれた所にある測定装置まで届く時間の差として観測されることでしょう。 この時間差をなるべく大きくして調べるには、遠くで出た光を見るのが適しています。 つまり、星を見て確かめる方法が考えられます。
わりと新しい実験結果としては、1977 年にアメリカにあるマサチューセッツ工科大学のK.Brecher(ブレッチャー)が発表(文献1)したものがあります。 彼は太陽の周りを地球が回っているように、見えない重たい星の周りをぐるぐる回っている星から出る光を調べました。
- 救急車がサイレンを鳴らしながら近づいてくるときには高い音になり、遠ざかっていくときには低い音になるのと同じ理由(⇒ドップラー効果)で、星が地球に近づいてくるときには星の色が青い方にずれ、遠ざかるときには星の色が赤い方にずれる現象を利用します。これで、近づいてくるときに出た光なのか、遠ざかるときにでた光なのかがわかります。
- 色の順番:
- もしも、星の速さの一部が光の速さに足されるのならば、 星が地球に近づいてくるときに出た光は早く地球に到達し、 星が地球から遠ざかるときに出た光は遅く地球に到達するはずです。 その場合、地球では、近づくときに出た光を受けてから遠ざかる時に出た光を受けるまでの時間は、その逆の時間よりも長くなるはずです。 このタイミングのずれを確認すれば、光の速さが星の速さの影響を受けているかどうかがわかります。
- これらを組み合わせると、軌道をぐるぐる回る星から出る光の色が赤い方にずれたり青い方にずれたりするタイミングを正確に調べれば、光の速さが星の速さの影響を受けているかどうかを確認できるというわけです。
Brecherは天文学者の助けを借りて、X線(←レントゲン撮影に使う目に見えない光)を出しながら、見えない重たい星の周りをくるくる回る星のデータを追求しました。何故にX線かというと、星と地球の間にあるガスの影響を受けにくいからです。また、信頼性を高めるために、3例(Her X-1, Cen X-3, SMC X-1)調べました。
上の図のように、光の速さをc、星の速さをv、その動く星から届いた光の速さを c+k×v
とするとき、kの大きさが1なら弾丸の場合と同じということになります。
kの大きさがゼロに近ければ近いほど、光の速さが光源の速さによらないという話は正しいということになります。結果は、
kの大きさはは、もしもゼロでなかったとしても
0.000000002 よりは小さい
つまり星の速さの10億分の2よりも小さいということです。これは星の速さを高速道路を走る自動車にたとえると、光の速さに足し引きされる分は、少なくともデンデンムシが這う程度の速さよりも遅いということです。ここまで正確ならば、疑うことは難しいでしょう。
この実験で検証されたことは、
|
1-2-2-3、見物人 走る
鉄砲から速度 a で飛び出してくる弾丸に向かって、観測者が速度 u で走っていったとしましょう。
彼が見るものは、速度 a+u で向かってくる弾丸です。〜見てみよう〜:列車に乗って時に、ほかの列車とすれ違う速度に注意してみてください。
踏切で見る列車の速度よりも速いでしょう。スピーカーから速度 b で飛び出してくる音波に向かって、観測者が速度 u で走っていったとしましょう。 やはり、彼が見るものは、速度 b+u で向かってくる音波です。
〜見てみよう〜:海に行ったときに、波に向かって走ると、 波が向かってくる速さが早くなるのがわかるでしょう。
ストロボから速度 c で飛び出してくる光に向かって、観測者が速度 u で走っていったとしましょう。 何と!彼が見るものは変わらない速度 c で向かってくる光です! 弾丸でも音波でも、観測者の速さが足されたのに、これはどうしたことでしょう?
光は音波と同じように何かの振動が伝わってくるものでした。 変だとは思いませんか? とっても変です。何かの偶然でしょうか?
1-2-2-4、走って測る光の速さ
光の速さが観測者の速度に依らないという現象は、とても奇妙な現象です。 これはぜひ、実験で確かめなければいけません。 どんなに奇妙な現象でも、現実に起こっていることであれば認めなければならないからです。 いろんな研究者が制度の高い実験を試み、結果はどれも、光の速さが変わらないことを支持するものでした。
この実験は装置を宇宙規模にする必要はありません。 光の速さは光源の速さに依らないことは既に確かめてあるので、 光源はどんな速さで動かしてもかまいません。 ならば、観測者と同じ速さで動かしても、何ら影響がないので、 観測者に対して光源を固定してしまってもかまわないことになります。 つまり、実験室の中に置かれた実験装置で十分に検証可能です。
ここで、装置を高速かつ滑らかに動かさなければならないという問題点が生じます。 幸いにして、私たちの大地は宇宙の中を猛スピードで移動しているので、これを利用します。 地球は太陽の周りを回っているので、太陽系に対する私たちの大地の速度の向きは、真昼と深夜で逆転します。 また、太陽は銀河の中をさらに大きな速さで移動しているので、 一年を通して測り続ければ、私たちの大地が銀河に対して様々な速度を持つ場合について測ることができるでしょう。 つまり、装置を地面に対して固定してそして待つだけで、太陽や銀河に対する様々な速度のケースが得られます。
もっとも有名で初めての試みは1887年にマイケルソンとモーレーが発表(文献2)しました。光をハーフミラーで2方向に分けて、それぞれの方向へ行った光の速さを比べることで、 光の速さのかすかな変化も読み取ることができるというものです。 一方の光線を東西に走らせ、他方を南北に走らせれば、地球が太陽の周りを回っているせいで、 もしかしたら、東西方向の光の速さが、一日を通して変化するかもしれません。
実験装置は大掛かりなもので、装置を巨大な石の台(右上図F)の上に乗せて、さらにそれを水銀の溜(右上図H)の上に浮かべました。 さらに光の道筋の長さを増やすために、鏡で何度も光を往復させます。 結局のところ、光の速さは、地球の速度の影響を受けないということが検証されました。その後もこのタイプの実験は追試され、実験精度はますます向上しましたが、いずれにせよ、光の速さは一定であるという結果が出ております。
◎大学入試問題にチャレンジ!:1998年 大阪府立大学(これに類似な実験)
これらの実験で検証されたことは、
|
1-2-2-5、結論
結局、真空中の光の速さは、光源や観測者の速度によらず、定まった値をとります。 なぜそうなるのかは、全くわかりません。 但し、ほかの理論と関連付けることは可能です。電気と磁気の法則をあらわした方程式から、多くの研究者が、アインシュタインが特殊相対性理論を発表(文献4)する時よりもずっと前から、予測していたことではありました。実験事実もこのことを大変な正確さで裏付けていることですし、疑い続けることも重要ですが、ひとまずは現実に起こっている事実を、素直に認めてしまって、先に進んだほうが得るものが多いでしょう。
さらに一歩進んで、光の速さが光源や観測者の速度によらずに一定だということが、 我々の世界の物理法則の中でも、もっとも基本的な法則の一つであるとしてしまう考えかたもできます。 この立場から、日本では古くからの慣習として「光速度不変の原理」と呼ばれています。 理由は解明できていなくても真理として信用して他の理論の「よりどころ」にするという意味で「原理」です。 ただし、この呼び方は、初学者の誤解を招くこと甚だしく、さらに現在においては日本独特のローカルな言い回しなので、 英文での表記 Constancy of the Velocity of Light に倣って、「光の速さの定数性」と呼ぶことを強く推奨します。
1-2-3、光速定数性に関するいくつかの注意点
真空中の光の速さは、光源や観測者の速度によらず、定まった値となる(=光速定数性)という話は、下記を前提としております。
- 光源も測定装置も加速させていないこと
- ただし、地球の重力や、地球の自転にともなう回転程度の加速は微小なので無視できるでしょう。
- 観測装置と観測される光の場所が同じ場所であること
- 離れた所の光の速さが、手許の値と異なるケースは、重力の理論ではよく扱われます。 これに関しては「見かけの光の速さ」という言葉がよく使われます。
- 真空であるだけでなく、光が伝搬する部分の近くに電気を通したり(導体・半導体)、静電気を溜め込んだりするようなもの(誘電体)が無いこと
- 周りの物体が、光(=電磁波)に誘導されることで発せられる電磁波に干渉されて、正しい結果が得られません
さらに、光の速さの定数性は、以下の状況においても光の速さが私たちが測定する値と同じであることを保証するというものではありません。
- 遥か遠くの宇宙
- 遥か過去、または、遥か未来
- あまりにも小さすぎて既知の電磁気学の理論を適用するのが適切かどうかわからなくなるようなスケールの世界
それぞれのケースで光の速さが私たちの知っている値と違う値を持つ可能性は否定しきれませんが、それぞれのケースで、それぞれの光の速さの値で、光の速さの定数性が成立するものと信じて理論を構築していきます。なぜ信じるかというと、特に疑う根拠がないことと、信じないと話を先に進めることができないから。
なお、最先端の理論によれば、時空の微細な構造に原因して、光の速さはその波長により若干の違いが出るかもしれないとも指摘されており、それらの理論の試金石になるとも考えられています。遠くの星から来た光を精密に観測する方法などの検証方法が考えられます。